契約交渉がどのように進行するかは、契約相手との力関係、契約内容、交渉期間の長短等、様々な事情が影響するため、画一的な「契約交渉メソッド」のようなものが存在するわけではありません。

ただ、契約交渉の多くの場面で押さえておくべきポイントはいくつかあります。

今回は、「契約交渉の際の基本姿勢」ということで、契約交渉の際にしばしば直面する2つの事項についてまとめました。

1.契約書の文面は自社で準備すべき?相手方に準備させるべき?

他の法人や個人と協力して新規事業をスタートする際、契約交渉の初期段階で問題となるのが、「どちらが契約書の文面を準備するのか」、という点です。

契約書の作成自体、時間やコストを要する作業ではありますが、一般的には、自社で契約書の文面を準備してそれを基に契約交渉を進めた方が、有利に交渉できることが多い、と言うことができます。

自社の契約書文案を示すことで、相手方に対して自社の希望条件を正確に伝えることができますし、その契約書をベースにして契約交渉が進行するため、交渉の主導権を握ることが可能となるためです。

ただし、自社で契約書の文面を準備して相手方に提示する場合には、提示する契約書に、自社の要望がすべて盛り込まれ、自社にとって不利益でないものであることが必要です。

仮に、相手方に提示した契約書の中に、自社に不利益な条項が含まれていたり、大切な条項が抜けていたりした場合、契約交渉の途中で、これを自社に有利な形で修正することは困難です。(後から自社が提示した契約書の文面を訂正すると、相手方に不信感を抱かせることにもなってしまいます。)

そのため、相手方に契約書を提示する場合には、その内容を慎重に確認しなければなりません。

立ち上げ後間もない段階のNPO等が契約交渉に臨む場合には、契約書自体に馴染みがなかったり、契約交渉の経験が少なかったりして、独力で契約書を準備することが困難な場合が多いかと思います。

そのような場合、(1) 契約書を相手方に提示する前にプロボノ等を活用して法律の専門家のアドバイスを受ける、これができない場合には、(2) 契約の相手方に契約書を準備させたうえで、各条文の不明な箇所について詳細に質問をして確認する、といった方法で慎重に交渉を進めるようにしましょう。

2.相手方が契約の変更に応じない場合の対応は?

特に大企業との契約の場合、相手方が契約の文言の変更に応じない(相手方の契約書ひな型以外で契約締結に応じない)と言われてしまうケースがあります。

しかし、契約の相手方に言われるがまま契約を締結してしまうと、大きな不利益が生じてしまう可能性があります。この場合、次のような対応を取ることを検討してみてください。

(1)契約書に記載された内容を慎重に確認する

特に条項数の多い書面を示された場合には、内容を確認するだけでも時間を要しますが、不利益な条項に気付かずに契約を締結してしまうことの無いよう、まず契約書の内容を慎重に確認する必要があります。

内容に少しでも不明な点がある場合には、相手方にその趣旨を確認するようにしましょう。また、重要な契約書(取引金額が大きいもの、リスクの大きい契約に関するもの等)を締結する場合には、適宜、法律の専門家の意見を聴くことも必要です。

(2)「覚書」等の書面を別途作成することを提案する

相手方の契約書のひな型や約款そのものを変更することができなくても、別途「覚書」等の書面で特約を設けたり、契約内容を明確化したりすることについては、相手方がこれに応じる場合も少なくありません。

具体的には、「本件・・・については、『●●契約約款』第●条の規定は、適用しないものとする」旨の覚書を締結して、約款の適用を排除したり、「本件・・・については、『●●契約約款』第●条の『■■■』には『△△△』を含むことを相互に確認する」旨の覚書により、契約内容を明確化する方法をとることが、しばしばあります。

従いまして、ひな型や約款を変更できないと主張された場合には、このような覚書の締結を提案する方法も検討してみてください。

(3)メール等で契約内容を確認する

当事者間の合意内容は基本的には契約書や覚書等の文言から解釈することになりますが、契約交渉段階でのメール等のやり取りも、契約書の文言を解釈する際の考慮要素にはなります。

そのため、契約書に不明確な部分があり、自社に不利益に解釈されてしまいそうな条項がある場合には、メール等の記録に残る方法で、相手方にその解釈についての確認を求め返信を受領しておくことが有益な場合もあります。

(4)無理に契約を締結しない

上記のような方法を取ることができない場合には、無理に契約締結に突き進むのではなく、契約を締結すること自体が妥当であるのか、という点に立ち戻って再検討することも必要です。契約締結によるメリットが大きい場合でも、不利益な条項が存在することによるデメリットが大きい場合には、契約を締結しない、という判断をすることが合理的な場合もあります。

自社の立場、不安点を相手方に伝えたうえで、それでも妥協点が見いだせない場合には、無理に契約をせず、他社との契約の可能性等を検討することが必要です。

契約交渉は、契約相手との組織の大きさの違い、契約相手との関係性、時間的な制約等があり、こちらの要求を伝えづらいと感じることがあるかもしれません。

しかし、契約書を締結してしまえば、その内容に従って実務をおこない、トラブルを解決していかなければならず、不用意に契約を締結してしまうと、自社が大きな不利益を被ってしまうこともあります。

そのため、状況に応じて専門家の意見を聴きながら、上記のように慎重に契約交渉に臨むことが必要です。

弁護士 瀧口 徹

 

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